この地の絞りの最大の特徴は、絞り技法の豊富、多彩さにある。尾張藩による絞り専売制も明治になり消滅するが、その後、全国各地に新興の絞り産地が出現するが、その大半が過当競争により昭和初期までに消えていった。そんな中で有松地区が地位を保ち得たのは、伝統と創意によって、他では真似ることができなかった数々の技法を生み出していたからに他ならない。
絞りという染色技法そのものは、古代から世界中に分布していた。しかし、世界に現存する約100種類の絞り技法のうち、75種類ほどがこの地区で現在も行われており、伝承者がいなくなったものまで含めると、なんと500種類もの技法があったとされている。それ故、有松・鳴海は世界の絞り研究者から注目を浴びているのだ。
現存する技法は、縫絞、蜘蛛絞、巻き上げ絞、三浦絞、鹿の子絞、筋絞、板締め絞、箱染絞、桶絞、嵐絞、千鳥絞、追東風絞などがあるが、これらの技法を数種類組み合わせて1枚の絞りきものは製作される。
ここでその技法の幾つかを紹介しておこう。


縫い絞
最も基礎的な技法で、その名の通り針と糸で絞る部分を縫いつけるもの。なかでも単純な平縫い絞りには、染めあがりが木目状になる杢目絞りと、その応用で丸型の輪郭の中に木目が松葉状に出る唐松絞りとがある。


くも絞
古くからの技法で、蜘蛛の巣状の仕上がりになる。代表的な技法である手ぐも絞りは、下絵を描かずに熟練した指先の勘だけでくくっていく。
左手で生地をしごいて山を作り、右手で糸を巻きつけていく。他に、かにくも絞、蛇の目絞などのバリエーションがある。
  
巻き上げ絞
模様の輪郭になる部分を平縫いして引き締め、袋状になった部分に糸を巻きつける。この他、糸を巻く前に皮やビニールをかぶせ、その部分を完全に防染する、帽子絞がある。
三浦絞
有松で絞りが始まってしばらくした頃、豊後から移住した医師の三浦玄忠の妻が伝えたといわれている。模様の一粒に糸を巻きつけるのは1週だけで、模様一列を一本の糸でくくる。平三浦(横三浦)、石垣三浦、疋田三浦(写真)などがある。
鹿の子絞
模様が鹿の斑点に似ている。京都の鹿の子絞と違って、道具を使うのが特徴だ。鹿の子台を使う縦引き鹿の子と横引き鹿の子、タタミ針の先を丸め垂直に立てた台を使う、突き出し鹿の子がある。人目鹿の子(写真)は縦引きの1種。
筋絞
生地に筋をつけながら、細かく折りたたみ、糸を巻きつけて棒状にまとめる。竜巻加工を施す手筋絞と機械を使う機会絞がある。縞模様が特徴で、手筋絞の1種に柳絞(写真)がある。

















有松・鳴海は活気ある産地だ。若手の動きも活発で、技術の伝承だけでなく新技法開発への取り組みにも力が入っている。その1つに市民を集めての絞り教室がある。受講生の中から技術伝承者を育てたり絞りのデザインに新風を送りこむのが目的だ。また、アメリカやヨーロッパでの絞り普及を目指し、海外へ渡り活躍しているる若手もおり、このことが「シボリ」を国際語としている。
一方地元では、絞りの認知度を高めるため、毎年6月の第1土・日曜日に「東海道名物絞り祭」を開催し、街道沿いで製品を販売する他、江戸時代から伝わる山車も公開し人気を集めていがちょっとしたタイムスリップの世界だ。