如嘉の芭蕉布の特徴は柄の豊富さにある

    芭蕉布の唄
          海の青さに 空の色
          南の風に (みどり)()
               芭蕉は(なさけ)に 手を招く
               常夏の国 ()した島沖縄(うちなー)
                            吉川英一

芭蕉布 蕉布は、数多い沖縄の織物の中でも古いもののひとつである。その歴史は、すでに中世(13〜16世紀)には生産されていた。近世(17〜19世紀)に入ると王族や貴族は無論のこと、農民にいたるまで自給自足の体制を作り上げていた。
琉球政府でも1684年(慶安1年)には芭蕉当職を設け、王府直轄の芭蕉園を有していた。かつては、日常着として沖縄中で愛用され、どこにでも原料の糸芭蕉が生育し、素朴な家内工業として織られていた。が、現在は本島北部の着如嘉を除いてほとんど見られなくなった。
糸芭蕉 蕉の種類には花芭蕉、実芭蕉(バナナ)、糸芭蕉の3種類があり、芭蕉布の原料となるのは糸芭蕉である。しかし野生のものは繊維が硬いため喜如嘉ではすべて栽培している。芽が出てから2〜3年で繊維が採れるようになるが、根元と先端を同じ太さにすると共に繊維を柔らかくするため、葉留め芯留めを3〜4回行う。
成長した芭蕉は、葉梢を1枚1枚はがして、ウヮハー(上皮)、ナハウー(中皮)、ナハグー(中)と区別する。ウヮハーは繊維が粗いので座
布団地、ナハウーは帯地、ネクタイなど、最も柔らかいナハグーは着尺地として用いられる。
機織 作行程は、ざっと数えても20有余と多岐に及ぶ。なかでも着尺用の布にとって命となるのは苧績み(糸坊ぎ)。とりだした繊維は、長さが1.5m前後しかなく、1本の糸にするには結びあわさねばならない。この作業はすべて手作業であり、時間と忍耐と注意力が要求されるため老婦人の作業となっている。
芭蕉布ができあがるには、原木を切り倒してから2〜3カ月、1反分の糸を紡ぐには約60本の原木が必要とされる。糸は乾きすぎると切れやすいので、織りの最適期は元来梅雨時期だが、今は、経糸に刷毛で湿り気を与えるなどの工夫により常時織ることができる。
糸紡ぎ 家の縁側で老女が一心に糸を紡いでいた。「撮影したいのだが」と言うと、なんの屈託もなく芭蕉布のきものに着替えて対応してくれた。かなりの高齢である。
赤ちゃけたしわくちゃの手で爪先を使って一本の細い糸にし、それを結んでいく。その作業には寸分の狂いもない。
糸を紡ぎながらいろいろ話しかけてくれるが、方言しか話せない老女の言葉はほとんど理解できない。しかし、時々見せる純朴な笑顔は、あわただしい時間を過ごす我々に、ほっとした安堵感を与えてくれた。
海 宜味村喜如嘉の前はエメラルドグリーンの海がまぶしい。のんびりと進む時間、汚れのない自然、素朴な人情、これらの総てが歴史とともに芭蕉布に織り込まれているような気がする。
この伝統織物は、もともと芭蕉布織物研究所で守り続けられてきたが、1981年5月に喜如嘉芭蕉布事業協同組合が設立され、同時に建物も建設された。
芭蕉布の反物となると生産数が少ないためちょっと手に入りにくい。が、小物類なら組合事務所で購入することができる。