ビニールハウスで蚕を飼育 全齢人工飼育の糸
きもの風土記 きもの風土記
きもの風土記 繭になった蚕

蔟につかまる蚕

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無菌室で飼育中
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粉末状の人口飼料
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もともと生糸生産の盛んであった日原町ではあるが、アイデアマンである木村町長は天文台に続いて「シルクでの町づくり」を考える。平成2年(1990)1月、この話を石西社に持ち込んだ。蚕糸連の副会長である鮫島正司氏は当事を振り返り次のように話す。「戦前、220万軒あった養蚕農家は、5万5千軒たらずになってしまった。近い将来日本の繭が無くなる恐れがある。これに歯止めをかけるには根幹をなす農家の育成と生糸の増産しかない。言いかえれば省力化と繭の安定生産が不可欠だ」と。
普通生産農家は桑を栽培し1日3、4回の桑葉を蚕に与えるという面倒な作業をこなさなければならない。そこで出番を迎えたのが人口飼料となるのだが、この飼育法は試験研究機関での実験例があるだけで、飼料の価格や生糸相場の不安定などが原因して実用化はされていない。が、ここ日原町では、行政、農協、石西社、大学と、官、学、産の三位一体によるプロジェクトが平成2年7月にスタートした。目指すは全齢人工飼料育と1週間養蚕と称する5齢のみ農家に託しての桑場育という二つの飼育法であり、1箱あたり30`の収穫量だという。
ここで人口飼料につて触れておこう。
人口飼料は京都工芸繊維大学の松原藤好教授の指導のもと、鞄光商事無菌養蚕システム研究所(京都)で開発研究されている。中身は乾燥おから50%と乾燥桑葉20%をベースにした薄緑色の粉状のものであり、かすかに抹茶の香りがする。これを水でペースト状に練り、トレース(飼育版)の底に置く、というより塗りつめる。稚蚕から繭になるまで3回程度の餌変えで充分に成長するという。教授の言葉を借りれば「この飼料と無菌システムを用いれば周年飼育ができる。すなわち365日糸を採取できるということで、現在の工業生産物に対抗できる潜在力を秘めている」ということになる。
町が資金を出し石西社が施設を提供、農協が運営を担当、いよいよ実験開始だ。2度3度と実験は繰り返される。が、いずれも収穫量は期待を大きく裏切るものであり、スタッフは原因の追及に追われる日々が続く。実験開始後1年が過ぎようとする7月、飼育室を改良するなどまさに背水の陣で第4次実験への準備を終えた。
新設された無菌室で人口飼料をトレイに1万匹の飼育にとりかかったのは11月初旬の頃であった。蚕は1齢から5齢まで、約25日間次々と繭を作った。しかも1箱30`の繭が生産できたのだ。しかし問題が残る。常に餌があるため、食欲旺盛な蚕とそうでないものとのその大きさにおいて不揃いがでるのだ。
稚蚕を預かり1週間養蚕を試みた養蚕農家、山田益子さんを訪ねてみた。「今のところ従来の方がいいようですね。というのも桑の葉の食い込みが悪いし、1週間養蚕というが10日もかかった、それに不揃いが難点ですね。また足が弱くまぶし(蔟)につかまりにくい。私たちもいろいろ工夫はしてるのですが・・・」と歯切れが悪い。しかしまだ実験段階だ。練り減りが少ない、黄応変しない、といった特徴もある。養蚕が衰退するなか、その根幹となる農家への省力化と収入の安定を図るため、この飼育法は是が非でも成功してもらいたいものだ。
昭和38年(1963)、日原町だけに限ると養蚕農家は250軒あったという。現在は5軒しかない。伝統産業のためにも明日の日の出を待ちたい。ガンバレ日原町!