KIMONOプロジェクト代表の高倉慶応は、福岡県久留米市の呉服店の3代目。“斜陽産業”といわれる家業を継いだが、2013年12月に「一度は世界一のファッションの街で勝負したい」と、パリの老舗百貨店プランタンで着物ショーを単独開催した。ショーの最後に左右で異なるデザインの着物をまとったモデルが登場すると、観客の目の色が変わった。
この日のために京都の業者に作ってもらった濃いナス色の「なす紺」を基調とした振り袖。右半分は19世紀末〜20世紀初頭に欧州で流行したアールヌーボー調、左半分は江戸期の画家・伊藤若冲の作品を参考にした絵柄だ。両袖で揺れるのは、それぞれの手法で描かれたボタンの花。日仏友好の証しを表した作品に会場は拍手喝采、カメラのフラッシュが盛んにたかれた。「アート、工芸の価値観からすると着物は世界で理解してもらえる」と実感した。


  
世界はきっと 一つになれる

もともと呉服業は「人生設計になかった」。東京の大学を出て都市銀行に入ったものの、1年もたたないうちに父親が病に倒れた。呉服業界のことを何も知らないまま「長男でもあり、宿命的に受け入れ」1年半で銀行を退職した。
いきなり仕入れを任され、複雑な流通、駆け引き、礼節を重んじる接客を実地で学んだ。着物の素晴らしさも分かるようになった。しかし業界を覆う難問が立ちふさがる。伝統技術を持つ生産者の高齢化、着物離れ、縮む市場……。何とかしなければとの思いの中でのパリでのショーだった。
そんな折、2013年9月に誘致決定した2020年東京五輪に思い至った。「出場国全ての着物を作ったらどうか。多くの人に見られれば作り手のモチベーションも高められる」。関係者らに呼び掛け、14年に世界196カ国の着物を作るKIMONOプロジェクトをスタートさせた。「国をモチーフにした着物を作るのは、その国の文化や歴史を学び、相手を認め、いいところを見つけること」。五輪で選手団の先導者が着たり、手を取り合ったりするシーンがあれば、平和のメッセージを発信できるのではと夢を抱く。
製作は国内最高レベルの業者に依頼。アパルトヘイトを克服した南アフリカを皮切りに、昨年までに53カ国分を完成させた。しかし、1着の製作費用に約200万円掛かり、196カ国をそろえるには約4億円が必要。1口1000円で40万人の寄付を目指す。「多くの民意が集まって実現させることに意味がある。協力していただければ」と呼び掛けている。
写真は、キリスト教や特産のワインの原料となるブドウをデザインしたジョージアの着物をバックにした高倉さん。