古くから着物やドレスなどの高級素材に用いられてきたシルク。デリケートで手入れが難しく、敬遠されることも多かったが、京都府亀岡市千代川町の山嘉精練がシルクを日常的に使えるように、家庭で洗濯しても劣化しない加工技術を開発した。今年、衣服への実用化に乗り出し、国内外のファッション業界から注目を集めている1

  
1度着たら 洗えるシルク

シルクの表面を覆うタンパク質を取り除き、本来の柔らかさや光沢感を引き出す工程を「精練」という。田畑に囲まれた小さな工場では、若手職人ら約20人が日々、絹糸の精練や染織作業に追われている。
同社は1970年の設立で、社長の山内伸介さん(44)は「自然に恵まれて水がいい。糸の色味が鮮明になり、仕上がりも全く違う」と、ものづくりの拠点を口丹波に置いた理由を語る。
家業のルーツは1550年代にさかのぼる。山内さんの先祖は、御寮織物司として京都御所に入り、約300年間皇族の衣装などを手掛け、「絹糸を扱う伝統技術は京都で培った」という。
ところが近年、和装産業を支えたシルクの国内生産量は低迷。着物などの需要が減り、生活様式が変化する中で、高価で扱いづらいシルクは敬遠されるようになった。
そこで模索したのが、家庭での洗濯にも耐えるシルクを作ることだった。これまで「非常識」とさえ言われたこともあったが、山内さんは「服は汚れて洗うのではなく、1度着たら洗う。現代の暮らしに合ったアイデアが必要」と強調。2008年に開発への挑戦が始まった。


  洗濯機で洗ってもOK
 シルクの普段使いを可能に

天然素材の風合いを損なわず、シルクが持つ高い抗菌作用や透湿性、光沢、肌触りのよさをいかに維持するかにこだわった。
「洗える」という点のみに固執すれば、繊維の表面を樹脂や撥水剤でコーティングする手法も可能だが、洗濯を繰り返すと硬くなり、けば立って色落ちもする。試行錯誤のうえ、素材に含まれる特定のタンパク質に着目。化学加工を施さずに、耐久性を向上させる技術「SHIDORI(シドリ)」を見いだした。家庭用洗濯機で洗っても品質を落とさず、シルクの普段使いを可能にした。
今年3月、ようやく実用化にこぎつけた。三越伊勢丹(東京)と企画したシルク100%のスカーフやカーディガン、ブラウスはあっという間に完売。国内外の服飾ブランドと連携し、下着やベビー用品なども次々と製品化した。認知度が高まり、取引の問い合わせは絶えないという。
山内さんは「人の肌とほぼ同じ分子構造のシルクは多機能で医療分野にも応用できる。時代のニーズをつかみ、伝統の素材を絶やさないよう探究していく」と将来を見据える。