花嫁がまとう白無垢の表面には、牡丹が咲き誇り、鶴が羽を広げて舞う。丹後ちりめん独特の「シボ」と呼ばれる生地の凹凸を生かして表現した柄は、繊細そのものだ。 丹後地方に江戸時代から伝わる伝統工芸で、それまでなかった婚礼用衣装を約30年前に生み出した。若い世代の間で和装での結婚式が見直されていることもあり、今も根強い人気を集める。年間500本が売れ、関西だけでなく関東からも業者が買い付けに訪れる。
京都府の与謝郡与謝野町界隈の丹後ちりめんは、安価な輸入製品の流通による需要低迷に頭を悩ませてきた。営む織物会社も収益が伸び悩み、一度は廃業を決意したこともある。それでも、既成概念にとらわれない物作りで活路を切り開いてきた。

  有終の美を飾る気持ちが
 大きな転機
婚礼用の着物生地を手にする蒲田さん

幼い頃から工場の隣で暮らし「ガチャ、ガチャ」という織機の音に慣れ親しんできた。高校卒業後に家業を継ぐと、新しい発想で商品開発に取り組んだ。
丹後ちりめんはよこ糸に1b当たり約3000回もの
りをかけ、生地を洗う「精練」を経て独特の風合いとなる。通常の染色は精練後に行うが、先に色を染めてから洗いをかける工程を試みると、深い色と心地良い手触りが生まれた。
努力を続けたが、輸入製品に押され、苦境に陥った。50歳を前に、海外の生産体制からヒントを得ようと韓国を視察。そこでは織機1台に5、6人ものスタッフがつき、3交代制で作業していた。人員削減が進む地元では1人で7、8台を見ているのに、価格は韓国製の方が安い。「太刀打ちできない」と衝撃を受けた。廃業を決心したのはこの時だ。
その年末、「これが最後」と開いた会社の忘年会の帰り道だった。参加していた織物業者に「白無垢を作ってほしいという話がある」と持ちかけられた。「思い切ってやってみよう」。有終の美を飾る気持ちで始めた挑戦が、大きな転機となった。
最も難航したのは、凹凸による柄をくっきりと浮かび上がらせることだ。生地が純白だけに、従来の製法では柄が背景と同化して目立たなくなってしまう。糸の太さ、撚りをかける回数に工夫を重ね、積み上げたサンプルは40種類を超えた。
納得の生地が完成したのは約4か月後。角度によって表情の異なる陰影と光沢が、優美な柄を描き出した。既存の生地とは一線を画す婚礼衣装を京都市内の業者に納入すると、大きな評判を呼び、注文は2〜3か月で400件を超えた。
「こんなニーズがあったのか。培った技術を生かせた」。丹後ちりめんの歴史に新境地を切り開いた。
古希を過ぎた今も、妻と二人三脚で婚礼衣装を作り続ける。新たな織り柄を考案し、シボの構成を変え、金糸やパール製の
を重ねる。時代の変化を鋭敏に感じ取り、業者の注文に応じて柔軟に改良し、より艶やかで人を魅了する生地を追い求める。
「言葉での説明なしで、人を引きつけるような作品を目指して今も開発に没頭している。情熱は今も変わらない。丹後ちりめんと厳かな和装文化の継承につながってほしい」。真っ白な衣装をいとおしげに手に取り、ほほ笑んだ。