クモの糸は「地球上にある最強の素材」と言われてきた。軽い上に強度は鉄の四倍、防弾チョッキに使われる繊維の六倍−。もしクモの糸を鉛筆ほどの太さに束ね、その糸で巨大なクモの巣を張れば「飛んでいるジャンボ機を止められる」との試算もあるほどだ。
「人がクモの糸をつくることができたら…」。
これまで多くの研究者が実用化に挑んでは失敗してきたが2015年、本格的な量産に向けて日本のベンチャー企業が第一歩を踏み出す。山形県鶴岡市の「スパイバー」が今月中に、年20トンのクモの糸を人工的に生産する工場を稼働させる予定だ。
スキーウエアなどに使われるナイロンの2倍の伸縮性があるクモの糸。量産化できれば動きやすい衣服が製造できる。スパイバー社長の関山和秀さん(32)は「着ていることを忘れてしまうような軽くて強い宇宙服や防護服がつくれるかもしれない」と話す。
そんな関山さんが今、目標のひとつに置くのが人工のクモの糸を自動車の車体やタイヤなどに使うことだ。鉄の約4分の1の軽さで自動車の車体にも使われる炭素繊維より、クモの糸はさらに4割ほど軽く、耐久性にも優れる。関山さんは「人工のクモの糸を使えば車体は軽くなり燃費性能がよくなる。事故の際も衝撃を吸収し、けがの心配が少ない自動車ができるかもしれない」と夢を語る。


 新たな段階へ
 量産化への道は

クモは共食いする習性があり、カイコのように飼育がしにくい。スパイバーが注目したのは微生物だった。詳しいつくり方は明らかにしていないが、遺伝子組み換えの技術を利用。クモの糸の主成分のタンパク質「フィブロイン」とほぼ同じ性質の強くて柔らかいタンパク質成分を微生物につくらせて粉にし、それを糸にすることに成功した。
こうしたスパイバーのクモの糸に対して、生物の動きなどから得たアイデアを製品に生かす「生物模倣技術(バイオミメティクス)」に詳しい独立行政法人物質・材料研究機構(茨城県つくば市)の細田奈麻絵(ほそだなおえ)さんは「将来の日本の製造業に広がりを持たせる存在になる」と期待を寄せる。生物模倣技術にはヤモリの足の構造を参考にしてつくった粘着テープなどの例があるが、細田さんは「人工のクモの糸にも大きな希望がある」と話す。
「クモの糸の量産化の技術を応用しあらゆる強度、伸縮性を持つ素材がつくれるようになった」とスパイバーの関山さん。将来は人工血管や人工靱帯、手術用の縫合糸などに使い「人の健康を守る存在にしたい」と語る。
5000年以上前、中国で始まった絹の生産は新しい産業をもたらした。人工のクモの糸は日本の製造業を新しい段階に引き上げる希望の種になるかもしれない。
関山さんがクモの糸の研究を始めたのは慶大在学中、友人との酒席で「人工のクモの糸を実用化したい」と夢を語ったのがきっかけ。2007年に英語の「スパイダー(クモ)」と「ファイバー(繊維)」から命名したスパイバーを設立した。
その後、経済産業省や民間からの追加出資を受け、トヨタ自動車系の部品メーカー、小島プレス工業(愛知県)と共同で「エクスパイバー」を設立。量産化工場の建設を始めた。エクス(X)は「無限」を意味し、クモの糸の可能性の高さを表現している。
きものにはいかがなものでしょう・・。