織物一筋に生きてきた十日町。江戸時代には「越後ちぢみ」、明治には「明石ちぢみ」、戦後はお召、昭和34年にマジョリカお召と数々のヒット商品を産み出して」発展してきた。
現在は、昭和40年代に友禅技術を導入したこともあって、振袖、留袖、訪問着、付下といった後染め商品が約8割で、紬絣などを含めて年間約130.000点生産されている。とはいえ、きもの離れなどもあって全国規模ではピ−ク時の5分の1以下に縮小しており、厳しい状況に置かれていることは否めない。
そんな中、創意工夫をしながら歩み続ける十日町産地。伝統のきものの売り方が変わってきた。海外に古着をネット販売したり、何度も水洗いできる絹商品を開発したり。「高級品」「手入れが大変」といったイメージを脱し、きものをシンプルに楽しんでもらおうというビジネスの潮流が現れている。

   
KIMONO 海を渡る
ネット購入した海外の人々から届いた写真

KIMONOは海を渡って生まれ変わる。そんな写真の束を十日町市内できもののネット販売会社「プチジャポン」を営む保坂勉さん(37)が広げてみせた。すべて海外の顧客から届いたものだ。あでやかな打ち掛けはウエディングドレスに縫い合わされ、薄手の小紋はヨガマットの収納袋に。パーティー用の靴、ランプシェード、ベッドカバー……。そのまま額縁に飾られた花柄の生地もあった。
「きものは織り方が精密だし、模様がきれい。オシャレ感は万国共通」と保坂さんは言う。2007年に創業し、英語でつくったホームページを通し、競り市場で仕入れたビンテージもののきもの類や生地、和装小物を月に計3千点とりそろえ、世界40カ国へ輸出する。
創業のきっかけは、以前会社勤めをしていたとき、駐在していた仏グルノーブル市でのことだった。現地のホームパーティーに招かれた同僚から、日本の振り袖が玄関に大胆に飾られていたと聞いた。日本人なら大切にタンスにしまってしまうところが、フランス人は客をもてなす装飾品として惜しげなく使う。ピンときた。「世界はアニメやコスプレ、戦国ゲームといった日本文化ブーム。きものにも需要はあるはず」。
ネット販売では米国、欧州、中東、アジアなどから年配女性らの注文メールが絶えず、米ドルか英ポンド決済で年間6千万円を売り上げる。「中古でも世に出れば人々を豊かにする。きものにはそんな力や価値がある」と保坂さんは思う。十日町市と南魚沼市塩沢地区で店舗も開き、1着数千円で販売する。カラオケや日本舞踊の練習着に買い求める客が少なくないという。


    手入れ大変を解消 洗える絹のきもの
開発した岡元社長 
冠婚葬祭のときだけでなく、もっときものを楽しんでほしいという思いが新商品に結実した例もある。十日市で設立25年のきもの総合加工会社「きものブレイン」は水で洗える正絹のきものや長じゅばんを開発し、長襦袢の売れ行きが好調だ。12年3月に一般発売をはじめ、瞬く間に年1億円を超えるヒット商品になった。
繊維と撥水剤を分子レベルで結合させることで、絹の風合いを保ちながら、家庭での水洗いでも収縮や毛羽立ちを防げることに成功した。昨年の「ものづくり日本大賞」で経済産業大臣賞を受賞した。
岡元松男社長(65)によると、正絹の和服は従来から汗の手入れに悩まされ、浴衣は洗濯が容易なポリエステル製が主流となった。だが、「水洗いできる正絹のきものなら、値段が高くても買う」というリサーチ結果を得て、07年から研究を進めてきた。
きものの買い手と売り手の考え方にギャップがあるのが市場の落ち込みの1因だと、岡元社長は見る。「手入れが難しいので汚さずにしまっておきたい」と言う消費者に対し、業界は「客はきものを所有するだけで満足する」と勘違いしがちだったと指摘する。岡元社長は「きものを気軽に楽しめる若者は増えている。市場をつくり出し、商品の流れもシンプルな形に変えていくべきだ」としている。