「斜陽産業」と言われて久しい養蚕への参入が相次いでいる。糸だけでなく、医療用品、化粧品などの原料にも使われている。新たなバイオ産業として息を吹き返すことができるか。
熊本県山鹿市に4月、国内最大の養蚕工場「あつまる山鹿シルク」ができた。床面積4100平方b、総工費約23億円。年間で繭(まゆ)を最大100d生産できるという。達成すれば、養蚕農家が約130戸ある群馬県(2015年47トン)を、一つの施設で超える。社長の島田俊郎(74)は「農業だけではなく、科学、医療でも幅広い役割を果たせる」と力をこめる。
繭の生産はピーク時の1930年代の約40万dが、135d(15年)まで減った。化学繊維が普及し、中国の安い生糸が入ってきた。養蚕を守るために70年代には生糸の輸入規制が始まったが、かえって関連産業が海外に移ることになった。いまや製糸工場といった関連産業は群馬、香川、長野各県などにそれぞれ数軒だけ。生産した糸は和服などに使われている。


  
繭生産は 最大24回
 国内最大の養蚕工場「あつまる山家シルク」

島田は、求人情報誌をだす「あつまるホールディングス」(熊本市)の社長が本業だ。14年初め、ある講演会で無菌ルームや人工飼料で蚕の飼育が可能と知った。「これは行ける」。ライバルはいないし、空いた土地でできる手ごろな新規事業、と感じた。
無菌ルームでは、病気に弱い蚕を安定的に育て、高品質な繭を生産できる。従来のやり方では生産は年3、4回ほど。新たにつくった工場では最大24回できる。昔に比べれば国産の糸も価格が下がり、輸入糸との価格差も小さい。伊藤忠商事の子会社に売り先を探してもらっている。高級衣料向けの生産を目指す。
最近の研究では、蚕は遺伝子組み換えや特殊なウイルスの力を借りて、人間に近い成分のたんぱく質を作ることが可能と判明した。将来的には大学と連携し、工場の一部を、手術で使う縫合糸や、すり減った軟骨の再生といった医療用の研究に使うアイデアもある。ただ、繭の生産が軌道にのるには3年ぐらいかかりそう。この間、赤字が続くことになるが、本業の利益などで穴埋めする覚悟だ。
また、新工場は造ったものの、蚕を成長段階ごとに移し替えたり、繭を採って仕分けたりする作業などは人手に頼るしかない。
新潟県十日町市の和服加工販売「きものブレイン」も15年末、無菌飼育の養蚕施設の試験操業を開始。粉にした繭を混ぜ込んだ化粧品やせっけんなどを18年までに商品化し、百貨店への出店を目指す。原料となるのは品種改良で生み出された、「葉緑素」(クロロフィル)を含む緑の繭だ。
社長の岡元松男(68)は14年、群馬県の大型製糸工場を見学した。明かりが一部にしかついていない。「国産の生糸で着物がつくれなくなる」と危機感をいだいた。しかし、試験操業では繭をとる作業は人手がかかり、費用がふくらんだ。「もうつぶれる」。何度も途方に暮れた。そこで、一定の利益が得られそうな化粧品用の繭の生産に当面注力することにした。


  着物用の生糸づくり
 諦めていない
着物用の生糸づくりを諦めたわけではない。東大の研究機関と組み、特殊なホルモンを蚕に注入し、作り出す繭の量を通常の1.3倍に増やすことを可能にした。「このままでは伝統的な養蚕は途絶える。養蚕業維持には年1千dの生産は必要だ」と岡元。今の生産能力は年10dだが、いずれ100dにしたい考え。今春にはそのための施設も確保した。自ら編み出した量産方法を同業他社に教え、養蚕の復活をもくろんでいる。