和木沢絹のふる里

本でも最良の絹と賞賛される「和木沢絹」の原点を探ってみた。
福島県のほぼ中央、阿武隈川が雪解け水を集めてゆったりと流れる。北西には残雪とはいえ頭を真っ白にした安達太良山(あだたらやま)が輝いている。
昔から詩や和歌にもうたわれた1780bの山を望むなだらかな丘陵地に囲まれ、母なる川阿武隈の恩恵を受けてきた福島県安達郡白沢村和木沢地区、ここが「和木沢絹」のふる里だ。
きもの風土記
安達太良山
桑園を懐に抱いた村の平均標高は300bと高い。が、桑栽培に格好の粘土が勝った肥沃な土地と、雪が少なく、蚕にとって重要な温度管理を自然が受け持ってくれるという、養蚕にとってはこのうえない立地条件が備わっている。筆者が訪れた時は、残念ながら桑園には緑は無く、蚕室や作業場もガランとしていた。「のんびりしているようだが、12月には桑園の手入れ、2月には桑木の剪定とこれでもちょっこらいそがしいんだよ」と話す養蚕家の1人。その顔のしわには長年培ってきた養蚕技術への自信がみなぎっている。
稚蚕を飼育し、各養蚕農家に供給する女性が話す。「温度調整をとッちがえると蚕の大きさも揃わないし繭形も揃わない。そのうえ、桑の葉に水分がつかないように湿度も調整しなければならない。制御装置があるとはいえひと苦労だよ」と。「でも、どんな人が着るんだろうね」と笑う。触れてみてわかる養蚕家の素朴な人柄。20軒前後の養蚕家がいっしょになって良い繭を作り出そうとする努力とチームワーク、稚蚕にも壮蚕にも心をこめて飼育する愛情、これらが究極の繭を作り出す。
晩秋蚕の繭を見せてもらった。その粒は大きく、見事なまでに形も揃っている、愛情を含んでつやつやと純白の光を放っている。
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出番を待つ桑園
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主役を待つ稚蚕飼育室
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温度管理装置

これからの和木沢絹

しかし、心配が無いわけではない。日本の衣装の原点である繭。その繭づくりから離れていく人は多い。ここ和木沢も新規企業が参入したり、住宅地として桑園が開発されるなど例外ではない。そんな中、養蚕農家と製糸工場のパイプ役として元グンゼ製糸の山口さんは、「養蚕家とマンツーマンで話し合っていくことや、老朽化した桑園の再開発など複合的にすることによって冬季の収入源を考えるなど、行政絡みでいろいろ考えていきます。やることはいっぱいありますよ」と、力強く言いきった。加えて「繭が原点」という職人気質を持ち続ける製糸工場の熱意と完成されたものづくりには「素材が大事」と空間を超えて熱いエールを送る集散地のこだわり、これらが三位一体となるかぎり春繭、夏繭、初秋繭、晩秋繭、晩晩秋繭と、ますます良質の和木沢絹が着る人の心を豊かに包んでいくにちがいない。
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和木沢の繭 養蚕の無事を祈る七福神舞