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初めて着る人のために

=きものや帯を見立てる場合のポイントはなんでしょうか。
=喜んで頂けるものを選ぶためには、顔立ちやタイプによく映るものにすることが大切です。きものの色、柄、素材によって太って見えたり、すらりと見えたりするものです。色にはパット目立って大きく見せる前進色と、目立たない後退色とがあります。前進色は一般に太って見えますから、太っている人には向きません。その点、後退色は引き締まってみせるので、小柄な人は損をします。しかし、ここで注意しなければいけないことは、体型映りばかり考えて顔映りを忘れてはいけません。体はしまって見えるけれど顔が死んでしまうような色では、これも困るわけです。少々太っては見えるけれど、顔を美しく見せる色であれば美しく見せる色を選ぶことも大切です。きもの姿は、姿を美しく見せることも忘れてはいけません。そこの兼ね合いが大事なのです。
また柄にしても太っている人は、やせて見えるのではないかと錯覚して縞柄を選びます。が、目立つほどの縞柄はかえってすらりとした人が着たほうが生きてきます。縞の直線はかえって丸い体の線を強調する結果となります。そうかといって真ん丸い柄ではよけい体を丸く見せてしまいます。そのような場合には体の丸みに沿いながら流れていくような曲線のものが良いでしょう。
その他、素材も考慮に入れるべきでしょう。素材は先染めと後染めの2つに分かれていますが、先染めである紬類はしゃきっとして張りがありますから、どうしても突っ張った感じになりやすい。特に新しいうちは体になじみにくい。
これを太った人がそのまま着ますと、フットボールの選手が裃を着たようになってしまいます。このようなものはやせた人が着た方がカサを大きく見せてくれるので良いわけです。逆に縮緬や綸子は、タレモノと言われるくらいですから、体にしっとりとなじみます。太った人のまろやかな線は、むしろ生かされてくるわけです。ただし、あまり薄っぺらな生地は、余計に太って見えますからご注意を。

=きものと帯を選ぶ場合に、注意しなければならないタブーのようなものがありますか。
=タブーというより、調和の原則みたいなものがあります。あくまで原則ですからそれを基準としてケースバイケースで応用してください。
洋装の世界で言われているコーディネートは、きものの世界でも何百年もの昔から行われており、我々の祖先も何枚かのきものと帯、小物類を幾通りかに組み合わせて楽しんでいました。基本的な考え方としては、まず格の調和、風合の調和、色・柄の調和ということになるでしょう。
昔から「染めのきものに織の帯」「織のきものに染めの帯」という言い伝えがあります。縮緬や綸子の染めのきものには、帯を西陣織風の帯を締めよ、ということです。反対に紬などの織物のきものには、塩瀬や縮緬の染め帯を締めなさい、ということなのです。
こうした方が素材の持つ風合のアンバランスのバランス、男っぽい紬には女らしい染め帯の方が似合うという美的感覚ばかりでなく、格の調和を教えたものと考えられます。例えば、上等の生糸は白生地に織られてから絵師や染色家の手によって仕上げられるので、きものは染めの方が格が上とされています。
(きものと帯のカラーコーディネート例)
明るい中間色 涼しい冷色 落ち着いた中間色 暖かい暖色
きもの
ピンク
若葉色
淡ブルー えんじ
ベージュ
淡 紫 明るい紺
ワイン
若葉色
きもの
白地に赤 ローズ
淡ブルー
ピンク
麦わら色
淡ローズ
紫 紺 淡ブルー
淡るり色
るり色
ワイン
きもの
ローズ ワイン
マロン
青 緑 黄 色
えんじ
マロン 柿 茶
グリーン
江戸紫
淡ローズ
濃 緑 渋い朱
辛子色
きもの
ピンク
クリーム
明ブルー ローズ
クリーム
ベージュ
金 茶
白 茶
現代では、結城紬や大島紬は一般庶民には高価すぎて高嶺の花となりましたが、昔は普段着として用いられていました。上等の糸は貧しい生産者にとっては生活の糧であり、屑繭や玉繭だけを真綿にして、それを紡ぎ家族のよそゆきとしていました。
一方、帯は西陣のように金や箔、刺繍などが使われているものは、専門家の手によって作られ、絹も金・銀・箔も多く使われているため高価になり、織物の方が格が上とされています。しかし、これはあくまで正式な場合の原則で、小紋のきものに塩瀬の染帯を用いることもあり、紬のきものに紬の先染めの帯を用いることもあります。これらは応用編で、小紋には染帯よりも織の名古屋帯を締めた方が格が上がるし、染帯を締めれば少しくだけた感じになります。紬に紬の帯はスポーティーな感覚になり、染帯を締めたときのような“はんなり”したものがなくなります。
色の組み合わせ方は、きものの中の1色をとったり、きものの地色と濃淡にしたり、全くの反対色用いたりします。きものの中の1色をとる方法は、比較的無難な方法です。濃淡は粋にもヤボにもなりがちで、反対色は調和が取れている場合は素晴らしい効果を上げますが、失敗するとまったくの逆効果です。
柄は、あまりかけ離れたものは感心しません。超モダンなものと超古典的なものとか、全く季節的にかけ離れた柄を組み合わせるというようなことは不釣り合いになります。

=きものを着る前の心得みたいなものはあるでしょうか。
=きものは着始めてからあれこれ探したりしなくてすむように、前もって準備をきちんとしておきます。花ござやたとう紙などを引いて、その上に着る順序に衣装を揃えます。小物類は途中でたったり座ったりしなくてすむように、手の届くところに置きます。例えば、椅子の背に腰紐などをかけておくのも良いかと。髪を結ったり化粧をした手で衣装をさわらないように、あらかじめ手を洗っておくことも忘れないように。
十分時間をとっておいて、着始めたら手早く着てしまうことです。時間が足りないと気持ちが落ち着かないため、出来上がりもそわそわした感じになり、着崩れしやすくなります。出来上がったら必ず大きな鏡で全身を映してみましょう。近くで部分的に見ていると近視眼的になって全体の感じがつかめません。

=羽織を上手に着こなすポイントのようなものがありますか。
=羽織を上手に着こなすには、羽織の丈も大切なポイントです。大体羽織の格によって寸法は決まっていますが、その寸法の割り出し方にもいろいろあります。着付け上から見た割り出し方は次の点に注意したら良いと思います。本羽織の場合(紋付、絵羽、無地など)は、
 
ただし身長が同じでも肩幅の広い人、いかり肩、なで肩などの体型によりかなり違ってきますから、体型を十分考慮することです。中羽織(小紋、絞り、紬など)は
 
もちろん体型を考慮すること。茶羽織は
 

=高校を卒業して初めて社会に出た人のきもの計画について教えてください。
=将来に渡って長く使えるきものは高価でもあり、衝動買いというわけにはいきません。時間をかけて1枚ずつ丁寧に揃えていくことが大切です。人それぞれの生活環境が違うように、きもの計画も自分の生活設計に合わせて考えるべきでしょう。女性の場合、結婚する相手によって環境がちがってきますから、相手が決まるまでは無難なものから揃えることです。
洋装が主の現代、普段着は洋装にし、礼装用や社交用としてのみきものを着る傾向が、特に若い人には強くなってきています。そこで高校卒業したてのお嬢さんなら、ます1枚目のきものとしては中振袖がいいのでは。やがてくる成人式、正月の晴れ着として、また友達の結婚式、見合い用の写真が必要になってくるからです。
色や柄はどこにでも用いられるオーソドックスなものが良いでしょう。帯もきものの格にあわせた袋帯を選びます。2枚目のきものは余裕をもって個性を生かしましょう。
きものが好きで、休日にはしょっちゅきものを着ているというのであれば、小紋などが良いでしょうし、今は着ないが将来のための準備ということであれば、色無地に1つ紋ぐらいが無難でしょう。中振袖では華やかすぎる場所には色無地が役立ちます。帯は織物の名古屋帯を用意します。
3枚目はおしゃれの感覚を生かして、小紋を買った人は紬などを、色無地を買った人は小紋を勧めます。将来小紋は必ず必要になります。

=草履を脱ぐときはどのような点に注意したら良いでしょうか。
=挨拶がすんで玄関を上がるとき、その場に手伝いの人が控えていて、どうぞそのままと言われれば別ですが、草履は自分で揃えてください。前向きに上がってから膝をついて玄関の方に爪先を向けなおしてください。揃えておくときも真ん中に置くのではなく、隅のほうに寄せておきます。

=日ごろ洋服ばかり着ておりますとたまにきものを着ても動きがとれなくて困ります。また、きもののマナーを知らないために、気がひけて安心していられないのです。どんなところに気をつけたら良いでしょうか。
車に乗り降りするとき 車に乗るときは体の中心であり、1番大きな腰から先に落ち着かせ、次に手足を折り込んでゆくようにするのが自然です。振袖などの長いものはドアのノブにひっかけたり、引きずったりしないように、前で合わせてから腰をシートに入れ、次に頭を入れ、それから足を揃えて入れ込みます。髪型が大きい場合には、沈めるようにして入らないと引っ掛けてこわしてしまいます。降りるときにはその逆に先に足を揃えて出し、頭、腰の順序で降ります。よく頭から前かがみで乗り込む人を見かけますが、これは見た目が悪いばかりでなく、きものの裾を引きずって汚してしまうから感心しません。
  
電車の吊り革につかまったりするとき 連続して手を上に上げていると、自然にきものの袖が下がってきて腕が出てしまいます。きもので二の腕を見せるということは無作法です。空いている手で吊り革につかまっている方の袖口下をかばえば袖は下がりません。また、ひじはできるだけ内側の方を体に近いところにおけば、肩の線が美しく流れます。
  
荷物の多いとき 荷物の多いときは、なるべく1つにまとめてしまうと楽です。両手に振り分けて持つというのは、見た目も美しくなく、いざというときに右手は空けておいた方が便利です。風が吹いてきて裾がまくれた場合にも、右手なら上前の褄を押さえることができます。電車でよろけた場合にもつかまることができるからです。下げるのではなく、抱えるようにした方が美しく見えますよ。
  
椅子にかけるとき ソファーなどの低い椅子に腰かける場合には、きものの裾か広がって腰かけにくいものです。あまり深々とかければ帯の形もつぶれるし、前の方が上がって短くなり、姿勢も悪くなって見よいものではありません。浅くかけるのがいいといっても限度はありますよ。
椅子の半分くらいのところに腰かけ、背筋を伸ばしておくと帯もつぶれず、裾も上がりません。両手を膝の上で揃え、ハンドバッグなどは自然に置きます。袖が長い場合には、床に引きずらないように膝の上に打ち合わせておくと良いでしょう。
  
階段の上り下り 階段に向かって体を斜め右向きにして上ってください。右向きにすればきものの上前の褄先を引きずる心配がありません。上前の褄に右手をかけて少しつまみあげればなお安心です。腰を曲げずに左足を階段にかけたら、右足で伸び上がるようなつもりになれば、美しい姿勢で上れきものも汚しません。下りるときは片方の足の爪先を伸ばして、一方の膝を曲げるようにすれば自然と爪先から地に着くことになります。かかとから先に着いたり、全体を同時に着くと美しくありません。